気候変動を緩和するために二酸化炭素を回収し有用なものに変える
今日の状況
現在起きている気候変動の脅威は、その大部分が、大気への温室効果ガスの過剰な排出に起因しています。 温室効果ガスの主体となっているのが、熱を閉じ込めて地球全体を温める二酸化炭素(CO2)です。
大気中の二酸化炭素濃度は、この数十年間で人類史上かつてない勢いで急上昇しています。その主要因となっているのが、発電や輸送機関のために使用される化石燃料の燃焼です1 2。
その結果として、2025年には、二酸化炭素濃度が過去330万年間で最も温暖だった時期のレベルを上回る恐れがあります3。
予測
各国政府とIBMを含む各企業は、地球の気温上昇を産業革命以前の気温から1.5°C以下に抑えるため、 二酸化炭素排出量の削減に努めています。この上昇幅を超えると、極地の氷融解により壊滅的な損害を招く転換点となるのです4。しかし、化石燃料に頼る電力源の使用が拡大しているため、その努力は台無しになり、私たちの目標達成は危機にさらされています5。 大規模な二酸化炭素回収のテクノロジーとソリューションは、排出量を正味でゼロにするための取り組みには不可欠です。
未来のためのソリューション
これまで、排出された二酸化炭素を回収するためには、化学的吸収や、膜を使って二酸化炭素をその他の気体から濾過する方法が一般的でした。ただしこれらのプロセスは、除去できる二酸化炭素の量に関しては効果的である一方、消費するエネルギーが大きすぎ、費用もかかりすぎるため、全世界での幅広い利用には向いていません。
二酸化炭素を地球規模で回収するには、新たな材料とプロセスが必要不可欠です。加速された発見サイクルを活用して、現在はどのような材料と方法が存在しているかを把握すれば、発見の機会が豊富にある領域を科学者が見極めることができます。
IBM Researchでの開発
IBMの研究者チームは、二酸化炭素回収のために既に存在する方法と材料を集めたクラウド・ベースの知識ベースを作成中です。アノテーションと自然言語処理に関するIBMのテクノロジーを活用して、特許や論文に含まれる情報をマイニングし、AIの応用によって情報を要約して、例えば二酸化炭素分離に関して最もよく知られた材料ランキングといった形で、調査結果を研究者に提供します。
科学者はこの知識に基づいて、二酸化炭素の回収と分離のプロセスのために望ましいと考えられる分子特性を明確に把握できます。さらにチームはAIアルゴリズムを活用して、二酸化炭素の分離効果がより高いポリマー膜の構成要素として最適な分子を予測できます。
回収後の二酸化炭素は、有効に活用できます。IBMの研究者は、 モノマーやポリマー(プラスチックなど)の供給原料や原材料として二酸化炭素を利用するための、持続可能性の高い材料の開発プラットフォームにも取り組んでいます。 二酸化炭素を基にした新たな材料は、回収と再利用が可能なリサイクル性を重視して設計されています。
手遅れになる前に二酸化炭素の回収と隔離を進歩させるには、発見プロセスの加速が不可欠です。これは、ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラストラクチャー、高度なAIシステム、膨大な数の化学反応の試験をAIのガイドで行う自動ラボ実験の緊密な統合によって実現します。この化学反応によって、二酸化炭素の回収、分離、転換に最適な材料の効果的な合成を可能にする、分子設計の規則と化学的プロセスが明らかになるはずです。
今後5年間の目標は、二酸化炭素の回収と再利用を地球規模に拡大できるまでに効率化することです。これにより、大気中に放出される二酸化炭素の量を大幅に削減し、最終的には気候変動のペースを鈍化させることができます。
- Revision of the EPICA Dome C CO2 record from 800 to 600-kyr before present: https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/2014GL061957
- 気候変動の脅威や持続可能な発展および貧困撲滅の努力への世界的な対応を強化するとの観点から、産業革命以前の水準比で1.5°Cの地球温暖化の影響、ならびに関係する世界の温室効果ガス排出経路に関するIPCC特別報告書: https://www.ipcc.ch/sr15/chapter/chapter-1/
- Atmospheric CO2 during the Mid-Piacenzian Warm Period and the M2 glaciation: https://www.nature.com/articles/s41598-020-67154-8
- Climate tipping points—too risky to bet against: https://www.nature.com/articles/d41586-019-03595-0
- Committed emissions from existing energy infrastructure jeopardize 1.5 °C climate target: https://www.nature.com/articles/s41586-019-1364-3