過去から学んで、より健康な未来を実現する

新型コロナウイルス感染症の危機が世界を襲ったとき、準備はほとんどできていませんでした。

医学研究コミュニティーは、コロナウイルスの細胞の仕組みを理解しようと緊急で取り組んでおり、急速なウイルスの感染拡大と戦いながら、有効な治療法とワクチンを探しています。

考えたくないことではありますが、新型コロナウイルス感染症を引き起こすSARS-CoV-2と同じような経過をたどる可能性があるウイルスが、自然には100万種類以上あるだろうと科学者は推定しています ¹。このため、現在のウイルスの脅威が去っても、これが最後にはならないと伝染病学者は推測しています。

独自の特性を備えた新材料を1つ発見するためには、約10年間と、1000万から1億ドル以上の費用が平均で必要です。新しい薬品が市場に出回るまでには、最大26億ドルの費用と10年を超える期間がかかる可能性があります²。この全体的なコストと期間の3分の1は、創薬段階に起因するものです。この段階では、研究者がただ1つの前臨床リード候補を開発するために、数千種類の分子を合成する必要があります³。

新型コロナウイルス感染症のような新しいウイルスの治療法をより迅速に生み出す方法の1つは、人間にとって安全であることが試験によって証明されている、既に市場に出回っている薬品から潜在的な治療法を見出すことです。これにより、以降の研究が促進され、臨床試験と規制当局の審査をより短時間に済ませることができます。

AI、アナリティクス、データを組み合わせ、実世界での医療データの分析を迅速化し、既存薬再開発のための新しい候補の提案や、臨床試験に必要な時間の短縮に役立てます。

このプロセスにより、デジタル化された医療データの集約、分析、解釈を含む、データの系統的な再利用を拡大できます。目標は、匿名化された数百万人の患者の医療記録から新しいパターンを特定できるように医療コミュニティーを支援し、感染症の疫学研究と可能な治療法についての洞察を生成することです。

新型コロナウイルス感染症への対応では、研究者は実世界での医療データに対してこれらのテクノロジーを使用し、2つの既存薬の使用を提案しました。1つは特定の免疫および内分泌の障害に対して承認された薬品で、新型コロナウイルス感染症の入院患者の死亡率を下げる効果があると見込まれています。もう1つは、前立腺癌の治療に使用されており、スペインでの大規模な後ろ向き調査を実施した後、新型コロナウイルス感染症の合併症を防ぐ効果があることが判明しました⁴。

これらの既存薬再開発に関する研究の多くは、事例観察や情報に基づく科学的仮説として始まったものですが、加速された発見サイクルによって、実世界の医療データを系統的にマイニングして大規模に展開できるようになり、現在の相関研究より進んだ研究が可能になります。将来的にこれらのツールは幅広い業界で採用され、世界規模で生命を脅かすウイルスに迅速に対処する実質的な手段の1つになるかもしれません。

今後5年間で、医療研究者はより大きな規模で既存薬再開発の新しい機会を見極め、利用可能な医療データに基づいて優先的に臨床試験対象にする候補を決定できるようになり、創薬プロセスにかかる時間の短縮に役立つでしょう。