母なる大地のモデリングにより、炭素排出量を削減しながら人口増加に対する食糧問題に対処する
今日の状況
増え続ける世界人口は、今日の約80億人から、2050年には100億人近くに達すると考えられています1。この人口すべてに食糧が必要です。
従来型の農業のアプローチでは食糧の需要急増に対応しきれないという、恐ろしいシナリオに対処するために、研究者たちはこの需要を満たす効率的で持続可能な方法を探し求めています。
予測
エネルギーを大量に使わずに肥料を生産する、より良い方法を見つけることが、このソリューションの大きな部分に関わるでしょう。肥料の主成分は窒素で、地球の大気中に最も豊富に含まれる気体です。現在のところ、窒素を農業に必要な硝酸塩に変えるための主な製造技法では、1トンの肥料を製造するために1トンの化石燃料に相当するものを燃やす必要があります。この製造方式はハーバー・ボッシュ法と呼ばれ、全世界の炭素排出量の1パーセントを占めると推定されています2。この気候変動の時代に、これが持続可能で拡張性のある生産モデルとはとても言えません。
未来のためのソリューション
耕作の起源から現在まで、人類は収穫量を増やすために窒素に基づく物質に頼ってきました。肥やしや堆肥、また産業としての農業では化学肥料も使われてきました。窒素は、私たちが呼吸する空気の5分の4を構成し3、タンパク質、DNAなど、生命に不可欠な分子の主な成分です。
一方で問題点があります。植物は、「固定」された形態でなければ窒素を取り込むことができません。 植物の根にある特定のバクテリアが、自然の力で窒素を固定します。自然は賢い方法で自ら肥料を作り出し、私たちの食糧となる植物に養分を与えているのです。半世紀以上にわたって、固定窒素の限られた供給量を改善して、迫り来る地球規模の食糧危機に対処することを目指して、研究者たちはこの生物学的プロセスを改良する触媒の開発を試みてきました。しかし、この生物学的プロセスの途方に暮れるほど複雑な分子の仕組みを研究者が観察し、モデル化する能力は限られていました。
IBM Researchでの開発
加速された発見サイクルを利用して、研究者は触媒に関する既存の知識を取捨選択します。数年以内に、量子コンピューターがさまざまな窒素固定の触媒プロセスを正確にシミュレートして、私たちの知識をさらに増やせるようになるでしょう。 これにより得られたデータを利用して研究者が予測モデルを構築し、今日の産業プロセスと比べればごく小さな量のエネルギーを使用する、新しい分子を見つけ出します。IBMは、これらの予測の検証を支援することもできます。クラウド経由でアクセスできるAI駆動の化学ラボで候補材料を検査し、材料を選別して有効性を確認できます。
次の目標は、世界の農業のニーズを満たせるようにプロセスを拡大することです。これは、燃料の化学エネルギーを電気に変える装置である、燃料電池を使用して実現できると考えられます。 燃料電池はバッテリーとは逆の働きをします。つまり、エネルギーを貯蔵する代わりに、燃料電池は再生可能エネルギー源からのエネルギーを使用して、大気中の窒素と水中の水素を結合し、アンモニアを生成します。 ここでは触媒分子が重要な役割を果たし、窒素固定プロセスを持続するために必要なエネルギーの量を減らします。
今後5年間で、AIと量子コンピューターを味方に付けた私たちは、持続可能な規模で窒素固定を可能にする革新的なソリューションを生み出し、世界で急増する人口に対する食糧供給に役立てます。